お題「披露する機会がないけど語りたい薀蓄(うんちく)教えてください。」
普段、日常会話で哲学の話をする事はあまりない。
大学に勤めているとかで特殊な環境にない限り、殆どの市井の人はそうだろう。
だから「披露する機会がない」
けれども、これは一応言っておきたいなという事がある。
それが「ソクラテスはそんな事を言っていない」である。
実はプラトンが書いたソクラテスの対話篇は、初期の作品こそ事実に基づいているものの、中期から後期にかけてはプラトンが創作したものである。
ソクラテスはプラトンの師であったが、書き言葉を警戒した。それは伝言ゲームのように意味が変わってしまうからである。直接の対面での「話し言葉」には身振り手振りや音の抑揚等様々な非言語的要素が含まれる。所謂、ノンバーバルコミュニケーションというやつだが、これが書き言葉になると欠落してしまうという事だ。
ソクラテスはこういう理由で、自分の話の意図が変わってしまう事を恐れて、著述をしなかったのである。これは実際にソクラテス自身がそう語っていた(と記録されている)
プラトンの中期対話篇メノン以降のソクラテスはプラトンの思想を伝える為の創作された登場人物と考えた方が良い。
実はソクラテスに限らず、多くの哲学者は誤解されている。
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デカルトもその一人である。詳しくは上記著作を読んでもらいたい。
他にも、ヴォルテールの言葉とされる「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」という言葉はヴォルテールの著作物には登場しない。これは後年に別の人物がヴォルテールの言葉として紹介したものである。
実はこういう事は枚挙に暇がなく、哲学者や宗教含む偉人の言葉は大抵、民衆に誤解されていて、丁寧に書物を読むと全然異なる事が書かれているという事はしばしばある。
ここから導き出される教訓は、一次文献に当たれという事で、出来るだけ又聞きの話を鵜呑みにする事は避け、何らかの方法で事実を確認して裏取りをしろという事だ。
余談だが、他にもウィトゲンシュタインは論理実証主義の論者とは全く異なる思想を持っていたとか、パスカルは晩年に自分の思想を振り返り回心している等があるが、それは又、次の機会にでも紹介したい。